KPOPアーティストを応援しているときに、音楽番組「〇冠」という文言を目にして、何だろうと思ったことはありませんか?音楽番組で、トロフィーを掲げ、紙吹雪の中、時には泣きながらスピーチして感謝を述べるメンバー。SNSアカウントで投票方法を懸命にレクチャーするファンたち。どちらも日本ではあまり見ることがない光景です。
日本で例えれば、レコード大賞の授賞式、、、くらいでしょうか?それでもファンは見守るしかなく、ショーレースの応援はCDを購入することのみです。
それに対して韓国の音楽番組は6つあり、月曜日以外は毎日あります。
ほぼ毎日、音楽に関しての1位が決まるというわけですね。
ファンたちのこの熱量は、いったいどこから来ているのか?
なぜKPOPアーティストやファンがそれほどまでに1位を獲りたいのか?
この記事では、韓国の音楽番組「1位」持つ価値について、まとめていきたいと思います。
- 音楽番組のチャートとは?
- カムバックとは?
- 1位の価値
- KPOPは韓国の国策
音楽番組のチャートとは?
韓国の音楽番組は6つあり、すべての番組にチャートがあります。
そして、番組それぞれでチャートのスコア基準を持っています。
日本においては、CD販売枚数が基準のオリコンチャートが重用されていますが、韓国では、CD販売枚数だけでなく、音源のストリーミングやYoutube再生数、ファン投票、放送回数など、多方面のスコアを採用しています。
音楽産業においての総合力を試される場であり、そこで1位になるのは容易なことではありません。
韓国の音楽番組まとめ記事はこちら↓
カムバックとは?
日本のアイドルやアーティストは、シングルを年に2~3枚だして、そのたびに音楽番組に2、3回出演。その後、それらのシングルを含めたアルバムを1枚リリースする、というスタイルが主です。
韓国では、年に2~3回、ミニアルバムやフルアルバムをリリース。リリースした後1か月間に集中して音楽番組に出て、ラジオ、SNS生配信など、精力的に活動します。
リリースのことを「カムバック」、活動期間のことを「カムバック期間」といい、アーティストはリリースごとに衣装や髪型のコンセプトを変え、リリース日まで、その情報を小出しに解禁してファンの期待をこれでもかと煽ります。怒涛の活動期間中は、アーティストも寝る間もないですが、ファンも活動も追いながら、1位に押し上げるために同じく寝る間もないといった、お祭り騒ぎになるのがKPOPアーティストの「カムバック」です。
1位の価値
1位がもたらす価値について、3つ挙げていきたいと思います。
1.活動の証明
KPOPアーティストは、短くて1年、長くて10年(!)くらいの練習生期間を経てデビューをします。
練習生時代は毎週、毎月の評価を受け、芳しくなければ退所。成績が良くても、デビューできるとは限りません。
グループコンセプトとの相性、メンバーとの相互関係などもありますし、同じ会社から立て続けにグループデビューさせることはほとんどないため(大体3,4年空く)、一つのグループがデビューした後、人選に漏れた適齢期の練習生が大量に退所する現象が見られます。その会社でのデビューの可能性がほぼなくなったからです。
このような練習生期を勝ち抜いたデビュー組も、すべてが報われるわけではありません。
2006年から2016年までの10年間でデビューしたグループ数は436
朝鮮日報10년간 데뷔 아이돌 436팀…1년에 한두팀만 남기도 – 조선일보 (chosun.com)
2017年から2021年上半期にかけてデビューした主要KPOPグループの数はさらに106にもなり、その中で1位を勝ち取れるのはほんの一握りです。練習生時代から、宿舎で寝泊まりし、1日何時間も練習、食事管理、体調管理をして、つかんだデビュー。そして、丁寧に準備したカムバックがたくさんのライバルを抑えて、1位になった時の喜びは計り知れないでしょう。
2.活動の保証
KPOPアーティストの事務所との専属契約は通常7年間だと言われています。
デビューした後、事務所は売り込みをかけ、アイドルも頑張って活動しますが、人気が出なければ解散となります。
各事務所ごとに指標はあると思いますが、CD販売枚数、音楽ストリーミング再生回数、Youtube再生回数、ファン投票といった、人気、数字を加味した音楽番組での「1位」は大切な実績の一つになるでしょう。
複数の音楽番組で獲った1位は「〇冠」と称され、「音楽番組〇冠アーティスト~」としてまた売込みしやすくなり、大衆の認知度も高まります。そうすれば、また次の活動につながります。1回のカムバックにつき、何千万もの資金が必要だと言われていますので、それにかける意気込み、1位を獲る重要性がひしひしと伝わってきます。
3.ファンとの共闘の証
音楽番組で1位になるためには、ファンの力がとても大きな要素になります。
CDを買い、MV・音源を毎日再生し、SMSで投票を行い、1位を取れるように応援。
ファンは、自ら音源再生や投票促進のためのチームを作り、SNSで広報を行い、推しを1位にするために一丸となります。
海外にいるファン同士が、時差を使って音源再生するといった連携をしているところもあるようです。
アイドルは連日連夜のテレビ、ラジオ出演、VLIVEなどでファン向けの配信をして言葉を伝えます。
音楽番組の1位は、アーティストがファンに、ファンがアーティストに向けて努力をした、いわば共闘の証といったところでしょうか。
そこで生まれた絆は、また次の活動への原動力にもなります。
KPOPは韓国の国策
そもそも韓国の音楽番組やKPOPアーティストはなんでこんなに多いのか?
KPOPは、韓国政府から文化事業としての支援を受けているという側面もあります。
1999年になると「文化産業振興基本法」が制定され、2003年までに5000億ウォン(約475億円)をコンテンツ産業に集中投資することを掲げた「文化産業振興基金」が設立されている。(中略)さらに2007年に韓国財政経済省は文化産業振興基本法の改正に伴い、中小企業のコンテンツ事業が海外進出する際のコンサルティング費用を最大の80%まで政府が負担することを決定している。
「KPOPはなぜ世界を熱くするのか」 田中絵里奈 著
KPOPを産業として育成し、海外進出へのサポートを行って、外資を稼ぐといった目的でしょう。
現在、「BTS(防弾少年団)」が世界的な成功を納めていることで、韓国政府は、2020年1月に「大衆芸術の優秀者に限り、現在28歳までの兵役を30歳になる年の年末まで延長できるようにする」という法案を可決しました。これは「BTS法」と呼ばれ、BTSのメンバーが、世界的人気のさなかで兵役に入る期間を少しでも先延ばし出来るために作られた法案だと言われています。
1996年に韓国で初めて制定されたIT関連法「情報化促進基本法」を皮切りに次々と打ち出したIT化政策によって、2000年に49.8%だった国内のインターネット普及率は2005年には92.7%へと飛躍的に伸び、世界各国に先駆けて一番早く90%台を突破していた。(中略)後述するような音楽配信サービスやECサービスの普及の高さを支えた。
「KPOPはなぜ世界を熱くするのか」 田中絵里奈 著
引用のように韓国政府は、コンテンツソフトへの支援だけでなく、ネットインフラのハードハード面へも介入。
韓国では、2003年にデジタル市場がレコード・CD市場を上回り、アメリカの2011年から8年も先駆けています。2019年現在、世界の音楽市場で約6割がデジタル市場からの収入であると言われており、韓国政府の文化支援が、結果的にKPOPを後押ししたのは間違いありません。
文化支援策での後押しがあるからKPOPが成り立っていると揶揄されることもありますが、実際それを無視することのできない大きなムーブメントであることは確かです。
そのような土台がありながらも、魅力的なコンテンツを作るのはアーティストたちの努力あってのもので、それが世界のKPOPファンを魅了しています。
まとめ
韓国の音楽番組のチャートやカムバックスタイルが、怒涛のお祭り感覚で行われること。KPOPアーティストにおけるチャート1位の価値、熱量を支える国策の側面などを説明してきました。
日本と異なる文化で、最初はその熱量に圧倒されますが、アーティストとファンが二人三脚で獲った音楽番組1位は喜びにあふれていて、何度でも味わいたい瞬間ではないかと思います。
この熱の意味を知りつつ、KPOPを見ていくとまた違った面白みと味わいを感じられるのではないでしょうか?