式場を出るとまだ陽が高くて、眩しさに思わず目を細める。
身体を撫でる春風はまだ涼しくて、式の余韻が爽やかに蘇った。
今日は大学のスヨン先輩の結婚式。
この世にあるすべての幸せを体現したような先輩を祝福した。
社会人になりたてで着慣れないドレスに身を包んだ私たち。
サークルで一緒に楽しく過ごした先輩との対照的な姿が滑稽でもあり、また愛おしくもあった。
式の高揚感に包まれた私たち5人は、足取り軽く街へ繰り出す。
「ねぇコーヒー飲もうよ!」
「賛成!」
弾む声で提案するリヨンにすぐに賛同するイェウン。
「さっきシメで飲んだじゃん…」
「みんなで話したいってことでしょ」
珍しいスカート姿でぶつぶつ言うリュウをユハが素早く諌めて、私たちはカフェに入った。
休日でたくさんの人が溢れかえる店内。
ドレス姿でも目立たないくらい、多様な人で溢れていた。
ここにいる人たちに幸せのお裾分けをしてあげたい気持ちになっている自分に気づいて、結婚式の凄さを感じる。
「ジアは何にする?」
「私はアメリカーノ」
カフェを渋っていたリュウがみんなの注文をテキパキとまとめて、ユハとレジカウンターに並ぶ。
私たち3人は座る席を見つけに店内へ繰り出した。
「綺麗だったよね!」
一際テンションが上がっているリヨンは、テーブルに着いた途端に小さく叫んだ。
「先輩もすごく綺麗だったけど、あのドレス…本当に素敵だった」
潤んだ瞳で少し遠くを見つめているリヨン。
それとは対照的に、紙ナプキンをいじりながらぼんやりとしているイェウンが気になった。
「イェウン…大丈夫?」
「…うん、何?」
「お待たせ〜!」
リュウとユハが5人分のドリンクを手にテーブルにつく。
「ねぇ、あのドレスやばかったよね?」
「わかるーー!あれオーダードレスかな?」
「私も絶対ドレスはオーダーにしたいの」
席に滑り込むと同時にドレスの話をするユハとさらに盛り上がるリヨン。
淡々と飲み物を配って、これまた対照的に一点を見つめてストローを吸うリュウ。
物静かな2人を会話に誘うために、何となく質問した。
「イェウンはどんなドレス着たいの?」
「ブフッ!」
「リュウ大丈夫!?」
遠くを見つめるイェウンが気になって、話を振った途端、リュウがむせる。
横に座るユハが、慌てて紙ナプキンでリュウのドレスを拭いている。
私はテーブルを拭きながら、雰囲気を変えようと考えた。
「リュウはドレスよりタキシードの方が似合うかも」
「確かに…!ってイェウン、それ私のノンファットカフェラテ!」
イェウンが持っていたのは隣のリヨンのドリンク。
「あぁ…ごめん」
ストローの飲み口を必死に紙ナプキンで拭くイェウン。
少し冷静になったリヨンがリュウとイェウンを見る。
「ねぇ2人ともどうしたの?そんなに式が良かった?」
リヨンに尋ねられて、少し俯いたリュウが呟く。
「…うん」
「それなら何でそんなにぼんやりしてるの?」
リュウはコーヒーを口に含んでゆっくり飲み込んでから答えた。
「将来はみんな結婚するんだなぁと思って」
「え?」
「そしたら何か、嬉しいような寂しいような、よく分かんない気持ちになっちゃって」
リュウはそう話すとカップの中をストローでゆっくりかき混ぜながら、それをまたぼんやり見つめ始めた。
今度はユハがイェウンに尋ねる。
「イェウンも?」
こくりと頷くイェウン。
みんなって言ってるけど、この2人の反応を見るに、お互いの結婚する姿を想像して動揺してるんだろうな。
まったく仕方ないな…。
私はある考えを実行すべく、立ち上がった。
「分かった。写真撮ってあげる」
「写真なら式場でいっぱい撮ったじゃん」
「違う、2人の。今日のドレス姿撮ってあげるから」
私を不思議そうに見つめる2人。
私は続けた。
「将来のことは分からないけどさ、今こうやって楽しく過ごしてることは間違いないじゃん。だからそれをしっかり写真にも胸に刻んでおくの。」
「うん…」
「OK、じゃあリヨンとユハはドレスの話してて」
「え、私たちは良いの?」
「5人の写真は帰りに撮るから」
私はよく分かっていない顔のリュウとイェウンを店の外に連れ出す。
「はい、じゃあ2人寄り添って。スマイル〜」
いつもと違うドレス姿だからかぎこちない2人。
「いつも2人で写真撮ってるでしょ?そんな感じで!」
何枚か撮るうちに、いつもの2人が戻ってくる。
笑みも溢れ始めたのを見て、私は撮影会の終わりを告げた。
「OK、終わり!」
「ありがとう」
席に戻りながら私は自分のスマホを2人に渡す。
寄り添って画像を見ながら、あぁでもない、こうでもないと話している2人を見て、私もほっこりとしてきた。
席に近づくと、気になって待っていたのかリヨンとユハが手を振って出迎えてくれる。
「どんな感じで撮れたの?見せて」
「うわー何か結婚写真みたい!」
「何でだよ!」
ツッコミを入れるリュウはまんざらでもない顔をしている。
イェウンは自分のスマホに転送した画像を見て微笑んでいた。
良かった。
未来がどうなるか分からなくて不安になる。
でも今の気持ちを忘れなければ、幸せになれる、きっと。